艦載コンピュータ
Shipboarn Computer


※プロッティング・ルーム内にMk. 6安定装置(中には大型のジャイロが入っていてスタビライズのためのデータをMk. 37砲射撃指揮装置に送信。操作員は2名で発砲装置を備えている。5インチ砲の発射はプロッティング・ルームから)とともに設置され、この装置が実用化される以前の射撃諸元計算装置はレンジキーパー(Rangekeeper)と呼ばれていた。大半のデータは電気ケーブルを介して電気信号でやり取りをするが、測距儀の測定データや風速や風向等はタップから艦内通話系で音声で伝達、操作員がハンド・クランクを使用して手動でコンピューターに入力。3名の操作員を1名の士官(プロッティング・ルーム・オフィサー)が指揮

↑Image courtesy of Navy Documents.


※指揮決定システム(Command and Decision System: C&D)は従来のNTDSないしCDS戦術情報処理装置を代替するもので、SPY-1レーダーやソナー、データリンクなどからの情報を総合して、周囲の目標について、その脅威度や攻撃手段などを自動で判断する。これにより、目標への対応についての判断において、処理時間が飛躍的に短縮された。ミサイル巡洋艦ではMk. 1、ミサイル駆逐艦ではMk. 2が採用されている
※イージス・ディスプレイ・システム(Aegis Display System: ADS)は戦闘指揮所の中枢となるヒューマンマシンインタフェースである。42インチ大の液晶ディスプレイ(LCD)であるLSD(Large Screen Display)を中核としており、ミサイル巡洋艦では4面構成のMk. 1が、ミサイル駆逐艦では2面構成のMk. 2が採用される。ただし、ミサイル巡洋艦のうちBMD 3.6改修を受けた艦は、左側のLSDを2面を外して、横長の大型ディスプレイ1面と交換している。またミサイル駆逐艦でも、ベースライン9C1/ABMD 5.0CUへのアップグレード改修を受けた艦では4面に増設している
※武器管制システム(Weapon Control System: WCS)はC&Dによって攻撃の判断がなされたとき、ミサイルを選定しランチャーに発射指令を送り、発射後には中間誘導を行い、終末段階においては射撃指揮システムに対して指令を行う。実際の攻撃を管制するのが武器管制システム(WCS)である。従来用いられていたWDSをもとに、イージスシステムに適合化したものである
※ハードウェアはベースライン0では、C&D、ADS、WCS、AN/SPY-1にそれぞれ1基ずつ、計4基のAN/UYK-7電子計算機が用いられていた。またイージス武器システム(Aegis Weapon System: AWS)以外のシステムとして、AN/SQS-53ソナーおよびMk. 116水中攻撃指揮装置にも1基ずつのAN/UYK-7が用いられていた。これらを補完して、ORTSに1基、WCSに6基、ソナーとの連接用に1基、Mk. 86砲射撃指揮装置(Gun Fire Control System: GFCS)に1基、Mk. 99ミサイル射撃指揮装置(Guided Missile Fire Control System: GMFCS)に1基、トマホーク射撃指揮装置(FCS)に1基と、計11基のAN/UYK-20電子計算機も用いられていた。ベースライン4では、より性能が向上したAN/UYK-43電子計算機が導入され、AN/UYK-7を一対一対応で更新するとともに、訓練用およびMk. 86 GFCS用として2基が追加。ベースライン5では、戦術データ・リンク機能を分離強化するため、7基目のAN/UYK-43が追加。一方、ミサイル駆逐艦のシステムでは、GFCSがAWSに統合されるなど一部の構成が異なるため、AN/UYK-43は5基となっていたマンマシンインターフェースとしては、当初は18基のAN/UYA-4コンソールが配置されている。ベースライン3では一部がAN/UYQ-21に更新。ベースライン6では、AN/UYQ-21は商用オフザシェルフ(Commercial Off-the-Shelf: COTS)化されたAN/UYQ-70へと、部分的に更新が図られた。このAN/UYQ-70は海軍オープン・アーキテクチャー化基盤(Open Architecture Computer Environment: OACE)の中心的機材と位置付けられている。ベースライン7ではこれが更に導入が拡大された。分散処理化が図られシステム全体が刷新された。従来の電子計算機を中心とするメインフレーム型のシステムは姿を消し、AN/UYQ-70ワークステーションによる分散ネットワークが取って代わるようになった
※ヴァージョンはイージス・システムは継続的な改良を受け、多数のヴァージョンが生じている。これらは大まかにベースラインとして区別される。また、同じベースラインの内でも小改良などによって生じる差異に応じて、フェーズとしての区別がなされることもある。
ベースライン1 最初期のシステムで、電子計算機としては従来の海軍戦術情報システム等で用いられていたのと同様のAN/UYK-7およびAN/UYK-20(補助)が採用されている。またLAMPS Mk. Iを搭載していた状態の構成は、特にベースライン0と区別される。装備艦はいずれも2005年中に退役。ミサイル巡洋艦タイコンデロガ級(CG-47〜CG-51)が搭載

(↑タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦タイコンデロガ(CG-47))
ベースライン2 ミサイル・ランチャーをMk. 41 VLSに変更。これによってトマホークSLCMの運用が可能になり、1987年度計画よりAWSに統合された。またSM-2(12)も射程延伸を図ったブロックIIに更新された。なお、2008年度より着手されたイージス近代化改修(AMOD)により、ベースライン2搭載艦のシステムはベースライン8(CR2/ACB08)にヴァージョンアップ改修された。ミサイル巡洋艦タイコンデロガ級(CG-52〜CG-58)の7隻
ベースライン3 レーダーを改良型のB型に変更したことで、高角度での目標探知が可能になったほか、全体に探知精度が向上。また軽量化もなされており、タイコンデロガ級の抱える欠点であるトップ・ヘヴィーの改善に益している。後にはベースライン4に匹敵するレヴェルまで強化されており、これをベースライン3Aと呼んで区別する。なお、2008年度より着手されたイージス近代化改修(AMOD)により、ベースライン3搭載艦のシステムはベースライン9A(CR3/ACB12)にヴァージョンアップ改修された。ミサイル巡洋艦タイコンデロガ級(CG-59〜CG-64)の6隻
ベースライン4 電子計算機は新型のAN/UYK-43、コンソールの一部もAN/UYQ-21に更新。またミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級が装備するものについては、レーダーがD型に変更。日本海上自衛隊のミサイル護衛艦こんごう型の初期建造艦は、これをベースとして日本独自の改正を加えたベースラインJ1を装備。その後、これらの艦のシステムはベースライン5フェーズIIIと同じ仕様にアップグレードされたのち、2012年度より着手されたイージス近代化改修(AMOD)によってベースライン9C(CR3/ACB12)にヴァージョンアップ改修された。ミサイル巡洋艦タイコンデロガ級(CG-65〜CG-73)の9隻。ミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級(DDG-51〜DDG-67)の17隻。ミサイル護衛艦こんごう型(DDG-173〜DDG-175)の3隻

(↑タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦ポート・ロイヤル(CG-73))

(↑アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦アーレイ・バーク(DDG-51))

(↑海上自衛隊こんごう型ミサイル護衛艦きりしま(DDG-174))
ベースライン5 JTIDS/C2PやTADIXS-Bの導入、AN/SRS-1戦闘方向探知機(Combat DF)の搭載等、指揮・管制機能や情報連携能力の強化とともに、民生品の導入(COTS化)によるコストダウンもはかられた。また、フェーズIIIではレーダーの管制プロセッサーが強化されるとともに通信能力も向上。ミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級(DDG-68〜DDG-78)の11隻。ミサイル護衛艦こんごう型(DDG-176)
ベースライン6 発展型シースパロー(ESSM)短SAMの搭載に対応し、光ファイバー艦内通信システムが導入。また、フェーズIIIはレーダーを改良型のD(V)型に変更したことで、低高度の目標や、低視認性の目標を捕捉する能力が向上。ミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級(DDG-79〜DDG-90)の13隻

(↑アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦ウィンストン S. チャーチル(DDG-81))
ベースライン7 AN/UYQ-70ワークステーションによる分散コンピューティング方式が導入されており、システム構成が一新。この商用オフザシェルフ(COTS)化の度合いに応じた内部ヴァージョンとして、CR(COTS Refresh)が設定されている。CRはすなわちハードウェアのヴァージョンを示したものであり、フェーズI(DDG-91〜DDG-102)はCR0、フェーズIR(DDG-103〜DDG-112)はCR1である。共同交戦能力(CEC)に当初より対応しているほか、レーダーに新型プロセッサーを導入し、また新型のスタンダード・ミサイルであるSM-2ブロックIIIBに対応。ミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級(DDG-91〜DDG-112)。スペイン海軍のミサイル・フリゲート・アルヴァロ・デ・バサン級の5隻。日本海上自衛隊のミサイル護衛艦あたご型の2隻。韓国海軍のミサイル駆逐艦世宗大王級の3隻。オーストラリア海軍のミサイル駆逐艦ホバート級の3隻

(↑アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦ピンクニー(DDG-91))

(↑海上自衛隊ミサイル護衛艦あたご型)

(↑スペイン海軍ミサイル・フリゲート・アルヴァロ・デ・バサン級)
ベースライン8 現用のイージス艦のシステムを近代化するためのイージス近代化(AMOD)計画に基づき開発されたもので、当初はCR2/ACB08と称されていた。ベースライン8は、2008年度より、当時ベースライン2を搭載していた7隻のミサイル巡洋艦タイコンデロガ級を対象として改修が開始されており、改修艦は2010年より順次に艦隊復帰を開始した。ハードウェアについてはCR2、ソフトウェアのヴァージョン(Advanced Capability Build, ACB)についてはACB08とされており、CECにも対応。CR2は、ベースライン7と同様に情報処理装置・端末をAN/UYQ-70に更新し、海軍が標準コンピューター・アーキテクチャとして策定したOACE(Open Architecture Computer Environment)にほぼ準拠したものとされている。またベースライン8搭載改修の対象となった艦がいずれもミサイル巡洋艦タイコンデロガ級であったこともあり、この改修に伴って下記のような改良が施された。AN/SPQ-9B低空警戒レーダーの導入。CIWSのファランクス・ブロック1Bへの更新。Mk. 45(5インチ主砲)の長砲身化(54口径から62口径へ)対潜戦能力の向上(対潜システムをAN/SQQ-89A(V)15、船首装備ソナーをAN/SQS-53D、曳航ソナーをMFTAへ更新、艦載機としてMH-60Rに対応)
ベースライン9 ハードウェアについてはOACEに完全準拠したCR3、ソフトウェアのヴァージョンについてはACB12とされる。またイージスBMD 5.0が統合される計画であり、これにより対空戦(AAW)機能とミサイル防衛(BMD)機能を両立したIAMD(Integrated Air and Missile Defense)機能が実現される。ベースライン9には、下記のような5つのサブタイプが計画されている
9A→ベースライン3搭載艦(ミサイル巡洋艦タイコンデロガ級6隻)へのバックフィット改修用。2012年度より順次に搭載改修を開始。BMD機能を持たないAAW機能特化型
9B→ベースライン4搭載艦のうちミサイル巡洋艦タイコンデロガ級9隻へのバックフィット改修用として計画されていたが、キャンセルされた。IAMD機能を有する予定であった
9C→ベースライン4搭載艦のうちミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級17隻へのバックフィット改修用。IAMD機能を有する予定
9D→ミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級(DDG-113〜)への搭載用。IAMD機能を有する予定
9E→陸上版イージス(AEGIS ashore)への搭載用。BMD機能を有する予定
※なお、イージス武器システムそのものはモデル・ナンバーによっても区別される。ただしベースラインによる区別のほうが性能を反映していることから、モデル・ナンバーはあまり重視されていない。Mod. 0はベースライン0、Mod. 1はベースライン1におおむね対応。Mod. 2は原子力打撃巡洋艦用として予定されていたが、搭載艦の計画そのものが頓挫したため開発されず、のちにVLS搭載ミサイル巡洋艦のうちSQQ-89を装備しない艦のシステム名称に流用。Mod. 3はVLS搭載巡洋艦のうちSQQ-89を装備する艦のシステム名称。Mod. 4はベースライン3、Mod. 5は計算機をUYK-43に更新した巡洋艦、Mod. 6はミサイル駆逐艦アーレイ・バーク級のシステム名称。31番艦ウィンストン S. チャーチル Winston S. Churchill(DDG-81)はMod. 9、35番艦マッキャンベル McCampbell(DDG-85)はMod. 11、日本海上自衛隊のミサイル護衛艦あたご型についてはMod. 6(V)とされている。

↑Image courtesy of Modern weapons.


※ロッキード・マーチンNE&SS-Eagan社製
※UYQ-70 EPSは計算機本体。UYQ-70 NGPは計算機能付き入出力コンソール。UYQ-70 SWSは潜水艦用ワークステーション。イージス・システムではベースライン6で採用

↑Image courtesy of Defense Industry Daily.
スペック EPS NGP SWS
基本性能 外形寸法 1,850mm×620mm×830mm 1,600mm×600mm×700mm
質量(最大) 1,000kg 600kg 500kg
筐体(冷却・構造) 間接水冷
衝撃緩衝器内蔵
直接水冷、衝撃緩衝器内蔵
電源 UPS付き、2台搭載可能 UPS付き、1台搭載可能
カードゲージ VME64バス
最大80スロット
VME64バス
最大40スロット
VME64バス
最大20スロット
プロセッサー HP-774/165MHz
OS マルチタスクOS:HP-UX
リアルタイムOS:HP-RT
メモリ 64/128/256/34/512MB
メモリ HDD/CD-ROM/MO/DAT/FDD
HMI タッチパネル 20インチLCD、キーボード
耐環境(温度) 0〜50℃ 0〜40℃ 10〜45℃
耐環境(EMI) MIL-STD-461D
I/F規格 ネットワーク Ethernet、ATM、FDDI
MIL
(艦船用デジタル)
MIL-STD-1397 Type A/B/C/D/E/F/G/H
(NTDS SLOW、FAST、ANEW、LLS等)
その他 RS-232-C、RS-422、RS-485、RFM(リレクティヴ・メモリ)


Update 23/06/23